My roots, My Story. -デザイナー 岡本大陸が語る<DAIRIKU>2024SSコレクション- vol.01
映画やアメリカのカルチャーが<DAIRIKU>に大きな影響を与えていることは、様々なインタビューで語られてきている。実際、コレクションルックの写真、ショーの演出、そしてなによりもデザイナー・岡本大陸がつくりだす服そのものから、彼が影響を受けてきたカルチャーを感じ取ることができる。どのインタビューの中でも一貫して、「ルーツやストーリーが感じられる服」をコンセプトにしていると語っているが、意外とそのコンセプトに至ったプロセスは語られていない。そして、岡本大陸自身がどんなルーツがあって、どんなストーリーを描いてきたのかは知られていない。今回はRISHのオリジナルコンテンツの中で特別に話をしてくれた。
<DAIRIKU>デザイナー 岡本大陸
-<DAIRIKU>のことをご存じの人も多いと思いますが、改めてブランドのコンセプトについて教えてください。
岡本:「ルーツやストーリーが感じられる服」ですね。映画だったりとか、古着だったりとか、自分のつくった洋服をパッと手に取った時に、その洋服から何かしらの影響を受けて、興味を持ってくれるきっかけになってくれると嬉しいなっていうのは思いますね。
-大陸さんの影響を受けている映画のようなルーツやストーリーを洋服で伝えていくと、やっぱり思ったように伝わらないこともありますか?
岡本:コレクションとしては、ルックの写真だったり、ショーの演出だったりでしっかりと伝えていきたいなというのはあるのですが、服一着で見たり、着たりした場合は、それぞれの感じ方や受け取り方があると思うのでそれはそれで良いと思っています。
学生時代に制作したファーストコレクションのスクラップブック
-あくまで、受け取り手に委ねるスタイルということでしょうか?
岡本:例えば、一つの映画を同じ映画館で何百人の人が同時に観たとしても、感じ方とか印象に残るシーンって違うじゃないですか。そういうニュアンスに近いですね。
ただ、「ご自由にどうぞ!」みたいな感じではなくて、自分がデザインする上でインスピレーションを受けたものとかをタグだったり、一部洋服のデザインだったりで伝えたいなっていうのはあったりします。
2024 S/Sのタグ
-ヒントですか?
岡本:ヒントというとちょっと違うかもしれませんが..こういうところにルーツやストーリーがあるというのは買ってすぐじゃなくても全然良いので、後々気づいてもらえたりしたら嬉しいですね。
-なにげなく見ているタグにもそんな想いがあったんですね。
声高に「こういう意味が込められてます!」みたいには言いたくないので、少し恥ずかしいですね(笑)
-では今シーズンのお話にうつらせてください。
今回のコレクション(2024SS)では、今までのコレクション以上に映画の要素を強く洋服や演出から感じましたが、どのような映画から影響を受けているのでしょうか?
岡本: 『Once upon a time in Hollywood』ですね。HOLLYWOODの象徴的なサインをつくったり、映画で出てくるものと同年代に近い車を演出として使ったりしました。
2024S/S コレクション
-わかりやすく、ダイレクトなメッセージだと感じました。
岡本:象徴的な部分で言うと、タランティーノ監督の『Once upon a time in Hollywood』なんですけど、それ以外にも自分の影響を受けたものが色々と複雑に関連していますね。
-具体的にはどういうことでしょうか?
岡本: 『Once upon a time in Hollywood』ってまさにハリウッド映画の全盛期(1969年頃)を描いている作品で、作中でさまざまなHollywood映画へのオマージュであったりとか、わかる人にはわかるポイントだったりが随所に散りばめられていて。
特に、作中の中ででてくるブルース・リーや、スティーブ・マックイーンなんかは僕にとってはずっとヒーローのような存在だったので、この映画のフィルターを通しながらも、自分がずっと好きでいる様々な要素をデザインに反映させていきました。
コレクションのルック撮影で使用された椅子
-「MY HERO」はそんなところからきていたんですね。
岡本:他にも、『荒野の用心棒』だったり、『バビロン』だったりもそうなんですけど、
この映画でウエスタン映画の熱が上がったっていうのももちろんあるのですが、並行して同じ時期にエンリオ・モリコーネっていうイタリアの作曲家のドキュメンタリー映画を観ていて、その影響もありました。エンリオ・モリコーネは色々な有名映画の映画音楽を担当していた方なのですが、父親が、モリコーネが音楽を担当していた映画が好きでよく家でビデオを観ていて、僕も隣でずっと一緒に観ていたっていうのもあって、懐かしい想いもありながら、『Once upon a time in Hollywood』とリンクした感じですね。
-お話をお聞きする前は、「あの映画とこの映画だろうな..」という推測があったのですが、
色々な影響を受けた映画の要素が抽出された上で凝縮されていたんですね。
岡本:全部話すと、かなりややこしくなってしまうので(笑)。一個「これ!」っていう分かりやすさは意識していますね。撮影の時とかも、「もうまんまあれやん!」っていうのでも全然良いとは思っていて。映画のニュアンスを出すのであれば、それくらいでも良いなとは思っています。難解だったり、複雑にする必要は別にないかなと。
-お話を聞くと、納得感がありますね。今回のコレクションの背景をたくさん聞かせて頂きましたが、一押しのアイテムで言うとどのアイテムになりますか?
岡本:ブルース・リーのつなぎですね。あの流れの中でブルース・リーが入ってるのは良いなと思っていて。あと普通にブルース・リー好きですし(笑)。素材をベロアにしたり、前がジップで開けられるようになっていたりするので、コーディネートは楽しめると思います。
2024S/Sコレクション
事務所のシェルフ内にもブルース・リーが。
ブルース・リーへの愛が事務所の様々な場所から感じ取れる。
-他にはありますか?
岡本:レザーのパンツですね。Vintage感のあるレザーを選んでいたり、星のパッチワークだったりをいれていて、60sとか70sのニュアンスが出るようにしていて。かつ、アメリカっぽさもわかりやすくデザインしています。
2024S/Sコレクション
-今回は2024 S/Sのお話をお聞きしましたが、今までのコレクションで言うと一番思い出に残っているコレクションを敷いて挙げるならどのコレクションでしょうか?
岡本:一番ですか?(笑)難しいですが、やっぱり一番最初のコレクションですかね。当たり前ですが、撮影なども含め、全てが自分にとって初めての経験だったので。
あとは、自分のつくった服を、小見山さん(フォトグラファー:小見山峻さん)が撮影すると、こんな風に見えるのかっていう驚きもあって、すごく嬉しかったですね。
自分の想像を遥かに超えてきた感覚は今でも覚えています。
その前は、学生の時にニューヨークでショーをやったのですが、ショーで魅せる服とリアルクローズとしての服作りは自分にとって全く違うものでした。
2018S/S VACATION
-具体的にはどのようなところが?
岡本:例えば、ショーだったら、飛び道具的なニュアンスの服も多く入れていたんですが、展示会ベースでの服作りになると、言ったらすごくカジュアルな印象になりますよね。フィッシャーマンシャツやベスト、今も継続してつくっているデニムだったり、サッカーのユニフォームっぽいTシャツだったりとか、10型くらいしかなかったんですよ。
今思うと数は少ないなと思いますが、ショーと展示会の違いも含めて記憶にはすごく残っていますね。
2018 S/S 「Vacation」のルックイメージ
-お話を聞いていると、毎シーズン違った思い入れがありそうですね。
岡本:そうですね。他にも2022 S/Sの「Boy meets Girl」というコレクションも思い入れの強いコレクションの一つですね。
-どのようなところが?
岡本:今までアメリカ映画をインスピレーションにしながらつくってきていたのですが、このコレクションでは初めてアジア映画をインスピレーションにしてつくったんです。
当時、裏原ファッションとかハマダーファッション(90年代に注目された、ダウンタウン浜田雅功さんのアメカジファッション)とか、ミステリートレインだったり..
今まではアメリカ映画でこの年代で、こういうカルチャーっていうのがあったんですけど、このコレクションでは日本人が憧れるアメリカっていうイメージでつくったので新鮮でした。
2022 S/S BoymeetsGirl
-アメリカのカルチャーからアジアに移行するのはある種の勇気みたいなものが必要だった感じですか?
岡本:いや、勇気とかでは全然ないですね。シンプルに「今、これがいいな」って思ったと言うか。50sから80sまでのアメリカの青春映画的なものだったり、アメリカングラフィティー的な要素だったり、色々影響を受けたものはあるんですけど、90sを表現したいと思った時には、ウォン・カーウァイとかその方向の方が共感できたんですよね。厳密には80年代の映画ですが、ミステリートレインとかもその考え方ですね。
あとは、このコレクションでは初めてレディースをつくったコレクションでもあったので、ブランドとしてもターニングポイントというか、新しいことにチャレンジしたコレクションでしたね。その次のコレクションでは、自分がずっといたアメ村の空気感だったりとか、裏原のカルチャーだったりを混ぜ合わせながらつくっていきましたね。もちろん、コレクションのテーマは毎回変わるんですけど、繋がっていってますね。
-「アメリカ映画とアジア映画」「アメ村と裏原」のような、年代も場所もバラバラなカルチャーをうまく混ぜ合わせながら縦横無尽に行き来しているのが<DAIRIKU>ならではだと思いました。
岡本:そうですね。テーマとしてはひとつこの映画というのは挙げるのですが、表面的にコピーするとかっていうことでは決してなくて、足し算しすぎるつもりは決してないんですけど、より深く掘っていくことで見えてくるものをうまくアウトプットしたいなとは思っています。
-例えばどういうことでしょうか?
岡本:自分の好きな映画監督は、何の映画を観て影響を受けたんだろうとか。例えば、タランティーノが僕は大好きなんですけど、タランティーノはどんな映画が好きなんだろう?どの映画からどんな影響を受けたんだろう?とかいうのが気になって。そういうところまで掘り下げていくイメージです。
-表面的な部分だけ切り取ると、ある種映画のコスプレみたいになってしまうリスクがあると思うのですが、<DAIRIKU>からはそのようには感じないのはそれが理由なのかなと感じました。
岡本:一部ガッツリそのままみたいなものもありますけどね(笑)。でも、それは心がけてます。生地変えたりとかそういうことではなくて、現代のファッションとして、機能性やシルエットなども含めてきちんと着たいと思えるものにというのは意識しています。
事務所の壁一面に貼られたリファレンス
-日常着として選ばれる理由がわかった気がします。大陸さんがここまでたくさんデザインをしてきた中で、一番着てるアイテムはなんですか?
岡本:マウンテンコートですね。2019 A/Wの時にだしたやつなんですけど、これは色違いでも着てますね。着やすいですし、アウトドアの服は結構好きで。高校生の時に初めてアメ村で買った服がpatagoniaのマウンテンコートだったんです。そういうのもあって、毎シーズンアウトドアの服はつくってますね。あとポケットが多い服が好きです。
あとは、ボトムスは基本自分のデザインしたものしか着ないですね。
インタビュー当日も着用していたマウンテンコート
事務所に綺麗に整理された洋服を整理する大陸さん
–ありがとうございます。コレクションの話からデイリーな話までたくさんお聞きできました。